先週まで調整気味に低下していた米金利は1.5%台後半で低位安定する形となりました。変異株の拡散、度重なるFOMCメンバーからのハト派発言により、利上げ織り込みは2023年末までに3回程度まで減少しました。まだFOMCメンバーによる予想を集計したものよりは織り込みが進んだ状態ですが、一応2月末に金利が急上昇する前の水準までは戻ってきましたので、大体金利の調整も終わったと思われます。ただし、名目金利は低下していますが、期待インフレ率は高止まりしているので、最近の高い物価指標を受けて根強い金利先高観は残っている状態です。
また、先週最も注目を集めたのが、バイデン大統領が計画しているというキャピタル税の大幅増税です。マーケットの織り込みとしては、増税はコロナ終息後早くても年後半から議論開始でしたし、増税幅も想定外に大きかったことから、一気にリスクオフで反応しました。一応、年収1億円以上の超高所得者のみが対象となっていますが、これらの人が株を売却するという連想が働き、対象外の株式保有者の売りも誘う形となりました。また、日本と違いアメリカは仮想通貨も株も同じく20%の税率となっているため、仮想通貨も軒並み大幅下落となりました。したがって、最近仮想通貨との連動を強めているAUDJPYも小幅に下落し、クロス円全般の下落に波及しました。
ただ、このかなり思い切った増税幅を伴う案では、共和党の反対にあうことは必至であり、議会通過の可能性が低いこと、更には欧州の良好な経済指標を受けて、株が戻ったことから、クロス円も下げ止まりました。
水曜日のBOCは、国債購入額の減額は予想していた人が多かったですが、フォワードガイダンスの部分で今後の利上げ時期を2023年から2022年後半に前倒ししたことはサプライズでした。FRBは2023年中は利上げをしないというメンバーが過半数となっていますが、基本的にアメリカ経済の影響を多分に受けるカナダは、金融政策面でFRBよりも先手を打ってくることはまずありません。そんな中でも、パンデミックショックからの回復も想定よりも早いとし、2021年のGDP成長率見通しも大きく上方修正するなど、マクレム総裁になってから、出てくる経済指標通りの分かりやすい判断を下しています。参加者は素直に、良好なカナダ国内経済指標を受けてCADロングを積んでいることから、USDCADは1.24台では下げ止まってしまいますが、引き続き戻り売りを狙っている参加者は多いことでしょう。前任のポロズ総裁は2013年6月の就任以降偏ったCAD安誘導を繰り返してきましたが、マクレム総裁になってから、最安値から半分くらい戻した形となります。今後は、マクレム総裁がどの程度の水準をフェアバリューと考えているのかを、探っていく必要があります。
- 今週の注目材料
1. バイデン施政方針演説
どのような予算案が出てくるのか注目です。今回の報道された案は20%から39.6%と現行の2倍の増税となる案となっています。既に市場は実現可能性が低いとして、金曜日にはある程度戻していますが、どの程度の税率で落ち着くのでしょうか。バイデン大統領率いる民主党の基本方針として、貧富の格差の是正が根底にあると思われ、富裕層に対する増税は必ず実現させてくるでしょう。仮に、法人税と同程度の28%近辺で妥協するのであれば、市場は株売りで反応することもないでしょうから、上手くコントロールできたということになるのかもしれません。
ただ、もし報道された通りの税率が発表され、追加財政案も纏めて議会の通過が危ぶまれることになるようであれば、これはかなりの大きな株売り・リスクオフ、クロス円の売りに繋がると思われますので要注意です。
2-2. FOMC
市場では、政策や声明の変更はないというのがコンセンサスとなっています。前回会合以降、出てきたFOMCメンバーの発言からも、特段大きな変化は見られません。ただ、環境は着実に変化してきていますので、油断はできません。ワクチンの接種は進み、経済活動も徐々に再開され、雇用は急回復しています。1.9兆ドルの現金給付の影響か、消費や景況感はかなり上向きです。住宅市場は活況で価格も上昇しており、ベース効果も含まれていますが、見た目の物価上昇はかなりのものとなっています。
また、先週BOCからはタカ派のメッセージが発表されました。アメリカ経済の回復の恩恵を二次的に受けているカナダの方が、利上げの開始時期予想が早いということには若干の違和感があります。そして、BOCは既に資産買取額の減少(テーパリング)を始めていますが、利上げは2022年の後半ということで、『テーパリングは先行してやるけど利上げは相当先』という、今後の世界の中銀のモデルケースになる可能性が十分にあります。万が一、現在のインフレが一時的ではなかったとして、カナダと同じく2022年後半の利上げの可能性も考えておかなければならないということであれば、テーパリングは今年中に開始しなければならず、6月のFOMCか8月のジャクソンホール辺りでは何かしらアナウンスを出す必要があります。そうなると、今回のFOMCでも、雇用や物価のトーンを多少上向きに修正して地ならしをしてくる可能性はあり、この場合純粋にUSD買いになるでしょう。
2-3. 月末需給
3月末は四半期末ということと、月中の値動きから、強烈なUSD売りとなっていましたが、今回はどうなるでしょうか。こればっかりは、各社から色々予想は出てきていても実体は分からないというのが正直なところです。しかし、月末にFOMCなどのビックイベントがあると、本来ファンダメンタルズで動く相場が月末の需給で歪められて、本当の市場の姿が見えにくくなることが問題です。これまでの経験上、月末はファンダメンタルズ通りには動かないので、あまり慌てて追いかけてエントリーせず、チャートポイントまで引き付ける方が得策でしょう。